社内報が読まれない! 創業者の伝記を漫画化して社員の心をつかむ

interview2023.11.14

社内報が読まれない ──。 

会社の歴史や文化を社員に知ってほしい。 

しかし、テキストが羅列されているだけでは読まれない。 

ならば、日本が世界に誇る文化「マンガ」を活用してみてはどうだろう。 

「〜IK物語〜 少年勝太郎」扉絵

今回は、稲畑産業株式会社広報部の橋本さんと、この春新入社員として同部に配属された薗田さん、脚本家の島田悠子さん、マンガ家の尾形和也さん、特定非営利活動法人LEGIKA(レジカ)代表の小崎に、「〜IK物語〜 少年勝太郎」の制作時の様子について聞きました。 

稲畑産業グループとは

稲畑産業グループの経営理念は「愛」と「敬」を大切にし、社会の発展に貢献すること。1890年に合成染料の輸入販売からスタートし、現在はケミカル事業を中心に電子材料、プラスチック、住宅関連資材、食品など多岐にわたる分野で事業展開されています。国内外で60以上の拠点を持ち、海外事業の割合は5割超。将来的には拠点間の情報ネットワークを強化し、長年にわたって培われた多様な機能を組み合わせて、より高度なソリューションを提供し続けることを目標とされています。 

 

社内報が読まれない……漫画という手法を使えば伝えられるのでは

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社内報に創業者の伝記マンガを掲載しようと考えたきっかけをお聞かせください。
橋本:
社内報がなかなか読まれていないという実態がありまして、読んでもらうためにまずはどうすれば人目を引けるかと考えた結果、マンガという手法を思いつきました。

ただ、マンガというものが社内報という媒体に馴染むのか、許容してもらえるのかという葛藤があり、構想から完成に至るまで5年かかりました。

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5年越しの企画だったのですね!構想を練り始めた当初、部署内で反対意見はあったのでしょうか。
橋本:

弊社の創業者である稲畑勝太郎の伝記をマンガにして社内報に掲載したいというアイデアを部内会議で少し話した時には、予想通り誰も反応してくれませんでしたね(笑)。 

自分が責任者ではありましたが、他のメンバーの同意を得ずに進めるべきではないということで、その時は自分の中で一旦保留することにしました。 

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今回、マンガ化企画が再始動したことには何かきっかけがあったのですか?

橋本:

保留したものの、「この企画は絶対にやった方がいい」という確信めいたものは持ち続けていたんです。

新聞購読者は年々減少していますし、LINEのようなコミュニケーションツールが主流になってテキストの量もどんどん減っている。すると長文を読めない人が増えて、若ければ若いほどそういう傾向も強まっている。

そんな世の中の流れの中で、今ならマンガの手法が世間的にも受け入れられやすくなっているのではと考えました。

また、弊社には海外にも拠点があり、ナショナルスタッフにも会社の歴史を知ってほしいという思いがありました。
海外では、日本のアニメや映画、マンガといったコンテンツの力が強い影響力を持っています。
日本語が読めないスタッフであっても、マンガなら絵で見てある程度理解してもらえます。

そうしたこともあり、ある程度自信を持って推進することができました。

稲畑産業株式会社 大阪本社社屋

LEGIKAなら、最後までお任せできると感じた

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LEGIKAのマンガ制作サービス「レジカスタジオ」のことは、どのようにお知りになられたのでしょうか。
橋本:

5年前からマンガを作ってもらえそうなところをネットで検索していて、大手出版社に問い合わせたこともあったのですが、費用的にも感覚的にも合わなくて。やはりハードルが高いな…と感じながらも、制作してくれる会社を探し続けました。

そして今年に入って、トキワ荘プロジェクト(※)の存在を知りました。

橋本:
詳しく調べるとマンガ制作を依頼できることがわかり、費用などの条件的にも非常に合うわけです。マンガ家を育成するという考え方にも共感できて、まさに自分が思い描いていたところだと感じました。
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紆余曲折あってLEGIKAの戦略的マンガ制作サービスにたどり着いたのですね。その後問い合わせをして、依頼するに至った決め手は何ですか?
橋本:
やり取りがきちんとできて、最後までお任せできると感じたことです。
マンガ制作に限らず、これまでに様々な制作会社とやり取りする機会がありましたが、中には依頼する側とクリエイターの仲介だけして、後はスルーパスする(アポイントを取った後は当事者同士に丸投げする、の意)ところもあって…。

ですがLEGIKAの小崎さんは、最初にこちらの希望を伝えるとその中でアレンジメントを施して、制作段階まで全て取り仕切ってくれそうだと感じました。
そして実際にその通りだったので、とても助かりましたね。

トキワ荘プロジェクトとは

特定非営利活動法人LEGIKAが運営するトキワ荘プロジェクトは、本気でプロを目指す若いマンガ家や志望者向けの支援プログラムです。マンガ制作に集中できるよう安価な住まいを提供し、技術が学べるプロスクールや仕事の紹介なども行っています。

既にマンガは「サブカルチャー」ではなく「ポップカルチャー」

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「稲畑勝太郎君伝」という伝記がベースですが、少女マンガテイストの絵柄など大胆なアレンジが施されているように感じました。これらのアイデアはどのように生まれたのでしょうか。
小崎:

まず社内報が読まれないという問題を解決する必要がありましたので、社員の平均年齢や男女比率に合わせて、その人たちが読みたくなるようなテイストにしようと考えました。

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小崎さんの提案書には、絵巻物や勲章など稲畑勝太郎さん由来のアイテムもアイデアとして取り入れられていますね。
小崎:
稲畑勝太郎さんに関する資料で勲章などを見た時に、推しのキャラクターのグッズをおしゃれに飾る文化を思い出したんです。その要素をマンガに取り入れたら可愛いですし、なんといっても目を惹きます。社員の方にも勝太郎さんの偉大さをビジュアルで伝えられると思いました。

それに、マンガは“サブ”カルチャーではなく“ポップ”カルチャーという認識になりつつあります。それを稲畑産業株式会社のような歴史の長い会社の作品に取り入れると面白いのでは、と思った次第です。

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小崎さんの提案を受けて、どのように感じられましたか?
橋本:
やはり驚きました(笑)。

そもそも、社内報にマンガを掲載して許されるのか?という懸念があり、史実に忠実で真面目な絵柄じゃないと許容されないだろう…と考えていたところに、このようなイケメンのキャラクターを提案していただいたので(笑)。

ですが自分の中でこの企画はいけるという確信めいたものがあったので、役員や社長の稟議が通るかどうか本当にドキドキしましたが、やらせてくださいと、お願いしました。

「〜IK物語〜 少年勝太郎」第一話より

社内だけではなく社外へのブランディングにも期待

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実際にマンガが掲載された社内報が配布されて、社内の反応はいかがでしたか?
橋本:
普段は厳しい役員が、想像していた以上に良い評価をくれまして、せっかくだからWebサイトにも掲載したらどうだろうと言ってもらえて、驚くと同時に嬉しかったですね。
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まさにマンガのターゲット層に重なる新卒入社1年目の薗田さんはいかがでしたか?
薗田:

実際に社内報が配布されて、社内ではマンガに対して好意的な意見が多いです。
「家で子供に読ませられる」とか、「この会社に入社して30年になるけど、こういう企画は初めて!」と声をかけてもらえることもあります。
私自身も、就活の時にこのマンガがあれば助かったなと思っています。会社の歴史を勉強する上で、わかりやすさは就活生にとって大事なことですので。

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確かに、社内に限らず社外に向けての発信にも使えますね!
薗田:
先程小崎さんがおっしゃられていた「マンガはポップカルチャーである」ということを、私たちの世代(20代)は強く実感しています。

ですので、マンガをWebサイトに掲載するなど、社外に向けても発信できれば、今後の採用活動にも良い効果が期待できると感じています。

ビジネスマンガの枠を超えて、誰もが読みたくなるような作品に

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本企画では脚本を島田悠子さん(※)に、マンガを尾形和也さん(※)に依頼されていますが、その経緯をお聞かせいただけますか?
小崎:
原作の「稲畑勝太郎君伝」 は、幕末から明治昭和という激動の時代を駆け抜ける稲畑勝太郎さんの物語です。そんな勝太郎の朗らかな少年時代から精悍な青年に成長する姿を、骨太さを損ねず、愛らしく脚本に落とし込めるのは島田悠子さんしかいないと、お話をいただいた時から考えていました。

マンガ担当の尾形和也さんは、少年誌での連載経験もある作家で、キャラクターの表情を描くのと、コマ割りなどの演出がとても上手いんですよね。
ですので、この二人がコンビを組めば絶対に面白い作品が仕上がるだろうと、確信していました。

島田悠子さん紹介

マンガ制作を行う専門プロダクション、レジカスタジオ編集部の専属脚本家。
脚本家の登竜門として知られる城戸賞の過去最多受賞者。
現在、株式会社リイド社出版月刊「コミック乱」にて掲載中の、池波正太郎原作「剣客商売」漫画脚本をチームで担当。
https://www.scenario.co.jp/online/29909/
https://www.legika.com/about/editorial-dept

尾形和也さん紹介

トキワ荘プロジェクトOB。入居後すぐデビュー。キャラクター表現やマンガ原稿の見やすさに定評がある。「空に想う」全2巻(少年サンデーコミックス)

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島田さんに今回のお話があった時、どのように感じられましたか?
島田:
「稲畑勝太郎君伝」自体が宝石の原石ではなく宝石そのもので、これは絶対に面白いものができるという手応えを強く感じました。

伝記のマンガ化ですが、フィクションを加えてもいいよとおっしゃっていただけて、あとは喜びと興奮の中で筆を走らせたという次第でございます。

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一般的な娯楽作品と、社内報に掲載する作品ということで、心構えに違いはありましたか?
島田:
本来的には心構えは違うのかもしれませんが、今回製作するマンガは、若い社員の皆様に会社のことをわかりやすく伝えることが目標です。となると、やはり娯楽性は欠かせません。史実通りに書くことも大切ですが、物語を際立たせるために適宜フィクションも加えて、誰もが読みたくなるような脚本に仕上げることを心がけました。
尾形:
実在する人物をマンガで描くのは初めてだったので、とても緊張しました。楽しく読んでもらいたいですが好き勝手には描けないなと緊張しました。
勝太郎 少年期キャララフ
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マンガを描くにあたって、特にどういうことを意識されていますか?
尾形:
功績については私が描かなくても伝わると思いました。ですので、私は勝太郎さんを好きになってもらえるように、人柄に興味をもってもらえるように描いています。何に喜んで何に悲しむ人なのかを表情やしぐさで伝えることを意識しています。

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第一話の表紙にはどんな思いが込められていますか?
尾形:
勝太郎が未来に希望を抱いている姿を描きたいと思いました。マンガは右からめくって読んでいくので、右は過去、左は未来を表します。未来に希望を抱き、持ち前の明るさで苦難も乗り越えて欲しい。そんな思いを込めました。
詳しい制作事例はこちらご覧ください
制作事例

マンガなら企業の歴史や文化を魅力的に伝えることができる

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今回制作したマンガによって、社内にどのような変化がもたらされることを期待されていますか?
橋本:
広報部の狙いは、飽くまでマンガによって社員に会社の歴史を知ってもらい、行動変革を起こして、会社の利益向上に繋げることです。

第一話が配布されて社内では好評を得ていますが、ここで油断してはいけないと思っています。ゴールに至るまでのハードルは高いですが、もう1ステップ、2ステップと上を目指していきたいですね。

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最後に、「〜IK物語〜 少年勝太郎」に今後期待することをお聞かせください。
橋本:
今後に期待することは、第二弾の制作です!

(一同、笑い)

今回制作したのは、稲畑勝太郎さんの人柄を描くことがメインで、会社が始まるまでの物語なんです。読んでくださった方からすると、きっとこの後何があったのかも気になるところだと思います。

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私も、一ファンとして第二弾があったらいいなと感じています!
最後に、今回のマンガ制作を通じて広がった、ビジネスマンガの可能性についてお聞かせください。
小崎:

歴史のある企業には、創業者の偉業やこれまで会社が大切にしてきたことなど、必ず“物語”があります。それらをマンガにすることで、テキストでは伝えきれない魅力を伝えることができます。

一般的に、ビジネスマンガと言えば企業と一般消費者のマーケティングに関連したものと思われがちですが、実際には異なります。企業の経営を支えるコーポレート部門以外からの依頼も多く、事業部門においても企業間取引で活用されることが圧倒的に多いのです。
マンガはポップカルチャーとして、ビジネスシーンにおいて今後さらに広く活用されることでしょう。

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橋本さん、園田さん、島田さん、尾形さん、小崎さん、本日はありがとうございました!

(取材・文/松尾しのぶ)

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